« その時カンナが咲いていた④ ~ギブミイチョコレート~ | トップページ | 嘘つきは泥棒の始まり »

その時カンナが咲いていた⑤ ~ギブミイチョコレート~

「アメリカは 女子供を殺した」
と父は話を継いだ
綿入れネンネコで 背負われた赤ん坊や
幼児が 機銃掃射を浴び
焦煙に巻かれ死んだ
虚ろに 死児を抱いて
涙の涸れた母親がそこ ここに いた

「なんまんだぶ ごめんなさい
なんまんだぶ ごめんなさいよ」
と父は 自転車を担いで歩きながら
ふと見ると 赤ん坊を抱いて
お乳を飲ませている
若い母親がいたそうだ
思わず父は 見知らぬその母子に
「おかみさんっ!」
「よござんしたね!」
と声をかけ~ しばし しばし  絶句した

「その赤ちゃんはな……」
「その赤ちゃんは 死んでいた……」
父は泣いた 父は震えるように 泣いた

「粗相で取り返しのつかない事を
言っちまった」
「あの日の赤ちゃんや
無念の仏さんにせめて……」
「戦争に負けたこの日が
田舎のお盆のご因縁で」
「母さんと二人で お線香を あげている」

~父には それ以上の 言葉が
続かなかった~

20180314094039_00003
空爆で半壊した民家を片付ける人々

しばしの沈黙の後 蝋燭の火が消え
陽の翳りが感じられた
母が小さく呟くように言った
「紙一重なのょ “生きてる”ってのが」

そして私の顔を見詰めながら
「戦争に負けたからって
根性までは 腐らせはしない」と
語気を強めた

“ギブミイ”あの時のことだと私は直感した

「犬猫相手じゃあるまいし食べ物投げて
それ拾って人間のカスですょ」
と母はきっぱりと言い切った

ねえやさんが 蚊取り線香を持って来た

父と母の顔を見比べて
そっと私は立ち上がり
滑るように縁側を降りた
庭木戸を開け 一目散に駆け出した

近所の防火貯水池の土盛りの上に立った
おぼろげな理解
“ギブミイ”への父と母の怒りが
沁み入るように胸にひろがった

池の渕に 幾つものカンナの花が
咲いていた

昏れゆく陽射し 池の水面に
カンナの花が映り
小石を投げると カンナの朱がめらめらと
空襲の夜の炎のように揺れた

(終)

|

« その時カンナが咲いていた④ ~ギブミイチョコレート~ | トップページ | 嘘つきは泥棒の始まり »

「つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« その時カンナが咲いていた④ ~ギブミイチョコレート~ | トップページ | 嘘つきは泥棒の始まり »