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その時カンナが咲いていた④ ~ギブミイチョコレート~

ギブミイ騒ぎに「掛け合って来る」
と 怖い顔をして出て行った父は
夜になっても戻って来なかった
そして 夕餉の膳に
父の箸 茶碗が置かれて無い何故か
何なのか 大事な事が起きたのか
父がどうかしたのか
尋ねたくても母の緊張しきった
張りつめた面持ちに
私は一言も切り出せず 食事も早々と終え
胸の中がモャモャのまま
その晩 まんじりともせず
寝つかれなかった

翌朝 登校すると クラス中の話題が
ケンちゃんチ(私)の事件を中心に
沸騰していた

「ケンちゃんチのオジサンが
アメリカと喧嘩した」
そして
「ブタバコに入れられた」と
幼い級友たちの噂話が
父に関する私の知らぬ真相の核心を
明らかにしたが 帰宅してもその真偽を
母にも ねぇやさんにも 聞けぬままに
幼なかった私の心には
しこりが澱んでいたものだ

忘れるともなく忘れていた
ギブミイチョコ騒動から 時日が経過して
その日は 後から気がつくと
八月十五日だった

「旦那さんが いらっしゃい って」と
女中さんに告げられ 茶の間に入ると
何故か 盆提灯が飾られて
緊張した面持ちの父と母がいて
固い雰囲気が 張り詰めていた

父は「そこへ お座り」と言ったきり
しばし 押し黙っていた
母が ぎこちない仕草で 盆提灯の蝋燭に
マッチで火を灯した
それをきっかけのように
軽く咳払いをした 父が話し始めた

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「今日は 田舎の お盆だ」
と切り出した父が
こみ上げる思いを抑えるかのように
かすれた声で 語り出したのは
【東京大空襲】痛恨の惨禍についてだった

東京大空襲の未明
自宅の類焼をまぬがれた父は
出入りの職人さんたちの生死や
安否を知るべく
必死に自転車を漕ぎ 浅草に向かった

隅田川を挟んで対岸の向島に着き
望見すると 浅草松屋百貨店の各階から
火柱が吹き出していた
渡るべき橋の何処もが と言いかけて
父は 吐き出すように咽び泣いた
「ほとけさんが……
言い方悪いが ほとけさんが
ごろごろと……切ない…ね…
ご遺体がご遺体が……だ
真っ黒焦げになって、だ、 ぞ、建二っ
道をふさいで……いたっ」

(⑤へつづく)

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