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死出の旅路のお手伝い ~ 商い冥利に ~

呉服屋だからのセリフじゃないが
地球上人類の 最も美しい衣服は
『きもの』だと思う
マリーアントワネットもシンデレラも
粋で豪華で絢爛で 四季折々の着る物は
持って無い
『ドレス』は ダイヤなどの宝飾品で
整えなければ 衣装として成り立たないが
『きもの』は きものそれ自体が
宝飾に勝る 謂わば芸術品なのだ

世界のTOPブランド『きもの』が
日本人の日常から 当今 残念ながら
縁遠くなっているが
日本人ほぼ全ての人が
着物を着せられる時がある
終末の【死出衣装】をまとう時である

分別付かぬオバカが多い当節だが
マサカ【御棺の中】迄
パジャマやジャージーにはなるまい

ただし近頃 別な意味でのオバカが
「死に装束」と「死出装束」を
混同している
「死に」の時と「死出」の時は
【似て非なる時】着る物も
別なもの着用するのだ
【死に装束】は内匠頭切腹場の如く
正絹白羽二重長着長襦袢
下着も穢れ無い真白を着る
つまりは 死を決し
神の加護を願う意思表示の“きるもの”
なのである

敵討ちの場に女子供も白一色
【死に装束】に身を固め纏うが
これと【死出装束】は異なる

【死出装束】は 御棺のなかで着る
衣服 着付けも真逆に「左前」にする

かつて昭和30年代ごろ迄
呉服屋御得意様の諸方から
お心づもりの御調度御申付があった
【死出装束】を御仕度され
箪笥上段に納めておくのが
当時の心得であり 慣わしであった

Photo
昭和30年代

一昨年二月 都下近郊の方の電話
御問合せがあった
口ごもる様に「シデ イショウ」と仰る
『お旅立の御衣裳ですネ』とお答えすると
堰を切った様に次々ご質問があり
3~40分程 ――

忘れていた12月半ば
「憶えていらっしゃいますか」とのお電話
「本日〇〇万円送りました」
「お任せします【御旅立ち衣装】の言葉に
ほんと長い間の胸のつかえがとれました」
と仰る

昔作法で見積書請求書を
お送りしないでおいた
昔風な慣わしで小正月明けに鋏を入れた
仕立屋さんには
『糸を結ばない 糸を綴じない
返し針をしないで』と 仕立を頼んだ
ベテランの仕立屋さん二人
「勉強になります」と言いつつ
何度も何度も寸法を訊ねて来た

仕立上がり 『日』を撰んでの御納め
即日お電話があった
「偶然とは思えません 風邪をこじらせ
肺炎になり 入院中でした」
「お仕立ての出来上がったと言う日に
退院が決まりましたの」
「お品物が届いた本日只今
偶然のように退院ですのよ」
「ありがとうございました」を
繰り返し繰り返して
感謝を口にされておられた

『偶然でなく 御縁起です』
私は心の中でつぶやいた
商い冥利と言うべき想いがじんわりだった

13091401


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